読むビタミン剤・第6錠 牡蠣は「おいしゅうございます」

カテゴリー: 沖縄発奮物語~ビタミンO!kinawa
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C・W・ニコルの小説『冒険家の食卓』に、カナダの海岸が登場する場面があります。その海岸には、野生のカキ(牡蠣)がたくさん繁殖しています。

 

そして、こんなセリフが続きます。

 

「このカキは、日本人がその昔、運んできたものだってサ」

 

その、運んできた日本人こそ、戦前、沖縄県大宜味村から北米へ渡り、「海の農業」を志すようになった故・宮城新昌です。

 

バンクーバーへ行きますと、メニューに、「太平洋ガキ」を「ミヤギ・オイスター」と記しているレストランもあるそうです。

 

カナダから帰国した宮城は、1920年代に「垂下式」という革命的なカキの養殖法を発明しました。それを、国内ばかりでなく世界中に普及させたことから、「世界のカキ王」と尊称されています。

 

それまでのカキの養殖法は、「地播き式」でした。つまり、種ガキを浅瀬にばらまいて成育を待ったのです。しかし、種ガキが泥に埋もれたり、温度など海水の変化に左右されて、安定した収穫が期待できませんでした。

 

そこで、宮城は、発想を、水平から垂直へ大胆に転換させました。

 

それは、水面に浮かべた筏から、種ガキを挟んだロープを吊し、成育させるというアイデアでした。

 

それならば、種ガキが泥に埋もれることはなく、潮流や水温などの変化にあわせて、筏の位置を変えられます。

 

そうは言っても、実用化に向けて、試行錯誤の日々が続きました。

 

寝食を忘れて取り組んだ宮城は、夜中に突然起き出し、障子の桟を数えだして、

 

「この高さか?……こちらか?」

 

などと口走り、夫人に、気が変になってしまったのではないか?……と、ハラハラさせたエピソードが語り継がれています。

 

宮城が「世界のカキ王」と讃えられる理由のひとつは、「垂下式」の特許をとらず、だれもが使えるように広めたことです。

 

カキは、「海のミルク」といわれるほどタンパク質やミネラルに富んでいます。特に、即効性のエネルギー源であるグリコーゲンをたっぷり含んでいます。

 

ちなみに、「ひとつぶ300メートル」のキャッチフレーズで有名な大手菓子メーカーのグリコは、そのグリコーゲンから、社名をつけました。

 

宮城が「垂下式」の開発に没頭した1920年代を振り返ってみますと、沖縄は「ソテツ地獄」と呼ばれる極度の貧困に見舞われていました。

 

沖縄ばかりではありません。日本各地でも、農村部から恐慌の餌食になり、欠食児童や子供の身売りが横行していました。

 

全身全霊を掛けて「垂下式」の開発に取り組んだ宮城の胸中には、わがことのように他人の苦しみを共有するチムグクルが働いていました。

 

宮城の娘のひとり、「おいしゅうございます」のコメントで人気の食生活ジャーナリスト(人気テレビ番組『料理の鉄人』の審査員)の岸朝子さんは、父親の遺した言葉を心に深くとどめています。

 

「父は生前、こう言っていました。豆腐を、だれがつくり始めたのか、みんな、知らないだろ? カキも、それでいいんだよ。滋養のあるカキを、豆腐のように、安く、手軽に食べられるようにしたいんだ、と」

 

宮城の業績を称えた顕彰碑は、故郷・沖縄から遠く離れた石巻市萩浜に建っています。

 

それは、カキの名産地のひとつである宮城県が、県政100年の記念事業として建立したものです。
(了)

 

*『ビタミンO!kinawa』のシーズンⅠ(全10話)は、『沖縄発奮物語』です。薩摩侵入(慶長の役)、琉球処分、沖縄戦、27年間に及ぶ米軍統治時代などの「苦境」に立ち向かってきたウチナーンチュ(沖縄人)の志と底力をご紹介します。

 

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