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第1回 ウチナーンチュは黒潮の民

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「みなさん、どうぞ、目の前に広がる大海原を眺めながら、私の話を聞いてください。そして、思い思いに、想像の翼を、思いっきり広げてください……」

 

マスターのテノールが店内に響いた。

 

東京のR大学から「沖縄集中講座」の合宿でやってきた、「歴史・文化グループ」の学生たち5人は、あらためて大海に目をやった。

 

ここは、沖縄本島中部の、海に突き出た小さな岬。
『純喫茶うちなーたいむ』は、その淵にある。

 

外観は白亜の洋館なのだが、よく観察すると、屋根には沖縄ならではの赤瓦が乗っていて、しっくり調和している。中に入ると天井が高く、漆喰の壁と木目の美しい柱が、どこか南欧の雰囲気を醸し出している。

 

すべての席が海に向かっているので、常連客は、
「カウンターだけのお店ですよ」
「長屋みたいに横に長い、不思議な建物だよ」
「冷房はないけど、観音開きの窓が開け放たれていてさ、潮風を正面から受けるから、気持ちいいよ」
と、店の造りを説明する。

 

眼下のイノー(珊瑚礁池)は、虹を溶かしたようで、どこまでも澄んだ水面が小波をたててキラキラと輝いている。その先は、ミルキーな白い一線。ラグーン(珊瑚環礁)だ。そして、その彼方は、引き締まったコバルト色の大海が、水平線まで伸び伸びと広がっている。

 

「彼方に流れている黒潮のことを、沖縄では、クルスと呼んでいます。
沖縄の歴史や文化と、切っても切れない関わりがあります。ウチナーンチュ(沖縄の人)をひと言で表現すれば、黒潮の民、クルスの民……ですからね」

 

すると、若いお客様たちの間から、
「クルスの民……」
という呟きが漏れた。
浜崎あゆみ似の女子学生が、つぶらな瞳を輝かせて復唱したのだ。

 

セミロングの美しい黒髪を後ろで束ねたウエイトレスが、貸し切り状態のお客様たちの傍らに、入れ立てのコーヒーを置いていく。このウエイトレス、カコちゃん……という愛称で呼ばれている。

 

コーヒーカップは、壺屋焼の特注品だ。育陶園という陶器工房でつくってもらっている。

 

そして、自慢のオリジナル・ブレンドは、モカがベース。隠し味に使っている豆は、マスターが自分のAETハウス(沖縄県農業試験場が開発した耐風性パイプハウス)で自家栽培している。

 

「2万年以上も大昔の話です。その頃、いまのインドネシア付近は、大陸でした。学者たちは、その大陸を、〈幻の古代大陸〉とか〈スンダランド〉と呼んでいます。よほどの楽園だったのか、古い人骨が続々と発掘されています。ところが、2万年ほど前、水没が始まりました。地球の温暖化によって、北半球北部のぶ厚い氷河が溶け始めたのです。それによって、黒潮も次第に、およそ1万年掛けて、いまの流れ方に変わったんです」

 

学生たちは、水平線に目をやった。

 

「黒潮は、太い激流です。幅が50~100㎞、深さは200~1000m、毎秒2500~6500万トンで流れています。スンダランドの水没によって、その住人たちは押し出されました。海上で水上生活を始めたり、中国大陸に逃れたり。そのなかに、黒潮に乗って北上を試みた人たちもいたようです」

 

室内に、しばし沈黙が流れた。
潮騒の音が、かすかに聞こえている。

 

やがて、マスターがまた口を開いた。

 

「黒潮は、1万2千年前頃から、現在の流れにかなり近づいたとみられています。クルスの民が、沖縄にしっかり根付いたのは、縄文時代の後期とみられ……」
「あのう」

 

ある男子学生が、遠慮がちにマスターの話を遮った。
この学生、見ようによっては、『冬のソナタ』のヨン様に似ていなくもない。

 

「港川人の人骨が、日本史の教科書に載っていましたけど、たしか、縄文時代よりずっと古かったような気がするんですけど。港川人は、クルスの民ではないんですか?」

 

マスターは、よしよし……という表情でうなずいた。

 

「港川人は、およそ、1万8千年前に沖縄に住んでいた後期旧石器時代人です。スンダランド人の流れを汲んでいる……という説も確かにあるんですが、港川人が生活していた頃、沖縄は島々でなく、陸橋の状態だったらしいのです。ですから、港川人は、中国大陸から歩いてやってきた可能性が高いようですよ」

 

「ボクも質問があるんですけど」

 

ウッチャンナンチャンの南原清隆のような蟹に似た青年が、手を挙げた。

 

「港川人って、沖縄の人たちの先祖ではないんですか?」

 

「いま、港川人を直接のルーツと考えている研究者は、少ないようです。どうしてかと言いますと、沖縄の島々は、港川人が生活していた後年、水没したらしいんです。それじゃ、子孫をつくるどころじゃありませんからね」

 

「じゃあ、クルスの民は、水没のあと、沖縄にやってきたんだ」

 

浜崎あゆみ似が呟いた。

 

「そう。黒潮が、現在の流れにかなり近づいた頃。そして、彼らは、ウチナーンチュの、いわば母親となりました」

 

「母親?」

 

蟹に似た青年がまた声を挙げた。

 

「……じゃあ、父親にあたる人たちもいたってことですか?」
(続く)

 

*『沖縄史を語るカフェへようこそ~純喫茶うちなーたいむ』は、立教大学の「沖縄集中講座」の参考資料として企画したものです。内容は異なりますが、地元日刊紙が05年に発刊した別刷特別号(タブロイド判)の、いわば《原本》にもあたります。第1稿が完結して歳月がだいぶ経過していますので、現在に即してリライトし、ヨ~ンナ~(ぼちぼち)連載していきます。



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【純喫茶うちなーたいむ】のみ、発行順↓で掲載します。 最新号は「2」以降に載っています。

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【ご注意】

 

「くいしんぼ情報」「フレモニ・ネタ」など、『ウチナータイムス』にラインナップしている他の項目は、記事を時系列(最新のもの→古いもの)で掲載しています。

 

しかし、この『沖縄史を語るカフェへようこそ~純喫茶うちなーたいむ』だけは、連載ですので、発行順(古いもの→最新のもの)で掲載してあります。

 

従いまして、最新号は一番後、「2」以降に載っています。

 

 

*写真……前の頁で、チラガー(豚の面の皮)の写真にうんざりしてしまった読者の皆さんに、オリジナル・ブレンドを入れて差し上げましょう。(クリックすると、拡大します)

 

「純喫茶うちなーたいむ」のコーヒーは、定評があるのです



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沖縄史を語るカフェ《純喫茶うちなーたいむ》開店

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沖縄の歴史・文化・知られざるエピソードなどについておしゃべりする『沖縄史を語るカフェへようこそ~純喫茶うちなーたいむ』が、05年5月15日(祖国復帰記念日)からスタートします。

 

メイン・パーソナリティー(主人公)は、中年のマスターと、ウエイトレスのカコちゃん。

 

ふたりの会話を中心に、沖縄をめぐる物語が展開していきます。

 

そもそもこの物語は、立教大学の「沖縄集中講座」の参考資料として企画しました。
内容は異なりますが、05年に発行した地元日刊紙の別刷特別号(タブロイド判)の、いわば《原本》にもあたります。

 

全20回(予定)です。

 

第1稿の完成からだいぶ歳月を経ていますので、現在に則してリライトしながら、ヨ~ンナ~(ぼちぼち)うちなーたいむで掲載して参ります。

 

ウエブサイト『ウチナータイムス』主宰者 鈴木孝史

 

 

*写真は、チラガー(豚の面の皮)です。

 

ヤマトンチューの皆様、この写真を見て「旨そうだな!」と思った方は、沖縄に移住しても大丈夫でしょう。『純喫茶うちなーたいむ』の開店祝い(?)で5月上旬に催したビーチパーティーの1コマです。

 

これを炙った後、ザクザクに切って、マース(沖縄の塩)をつけて食べます。泡盛の肴に最高!(クリックすると、拡大します)

 

写真をご覧になって、気分を害された方は、次の頁へぜひ……。



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